大学入学共通テスト(公民) 過去問
令和6年度(2024年度)本試験
問53 (倫理(第3問) 問6)
問題文
次の会話は、ある日の授業の後に高校生D、E、Fが交わしたものである。
D:今日の倫理の授業はいつもと随分違っていたね。a ルネサンス期の絵画を見て、その中で何が起きているか考えるって、美術の時間みたいだった。
E:でも倫理っぽいとも思ったよ。考えたことだけじゃなくて、なぜそう考えたかもみんなと話し合ったから、頭を一杯使ったし、緊張したなあ。
F:それにしても、同じ絵なのに、注目するところもどう感じるかも、人によって違うのは面白かったな。
E:そういえば、教科書の中で、b 宗教改革の思想を扱ったところに、ルターの肖像画があるじゃない?厳格そうな雰囲気がして私は苦手なんだけど、誠実さが伝わってきて清々しいという友達もいて驚いたな。でも、倫理の問題と違って、芸術は結局、人それぞれの好みで楽しむものなのに、話し合うことに意味があるのかな?それに、感動ってそもそも言葉で表しにくいものじゃない?説明を求めるのは無理があるよ。
F:確かにそういう面もあるだろうけど、他の人が何にc 美を感じるのかを知ることで視野が広がるということもあると思うよ。
D:視野を広げるのは大事だと思うけど、話し合うのがいい方法なのかな。芸術の専門家に正しい見方を教えてもらう方が、偏りがないと思う。d 時代を超えて受け継がれた名作ってあるよね?正しい見方が分かれば、そういう古典の良さも分かるはずだし、それが成長することじゃないかな。
E:この作品がいいと教わったから私もそれがいいと思う、というのはなんだか自分の気持ちに噓(うそ)をついているみたいだ。それに芸術作品について、これが正しい見方だと決めつけてしまうと、逆に視野が狭くならないかな。
F:専門家に学ぶのは大事だけど、専門家自身、決まった正しい見方を知っているというより、日々知識を深めながら、自分とは異なる考え方も吟味して、よりよい見方を目指しているんじゃないかな。
上記の会話の後、次の倫理の授業で以下の資料が配付され、D、E、Fはその資料について話し合った。
資料 ルソー『人間不平等起源論』より
人は様々な対象を眺めて比較することに慣れる。知らず知らずのうちに、長所と美についての観念を獲得し、これが選(え)り好みの感情を生み出す。……人々は小屋の前や大木の周りに集まることに慣れた。……各人は他人に注目し、自分自身も注目されたいと思い始め、こうして( a )が価値あるものとなった。最も上手く歌ったり踊ったりする者、最も美しい者、最も強い者、最も器用な者、あるいは最も雄弁な者が、最も尊敬される者となった。そしてこれが不平等への、また同時に悪徳への第一歩であった。この最初の選り好みから、一方で虚栄と軽蔑とが、他方で恥辱と羨望とが生まれた。
E:自然状態では( b )と他者への思いやりに導かれていた人間が、( c )を通じて自由と平等を失ったというルソーの説は知っていたけど、資料によると、彼は( a )によって生じた不平等のことも考えたんだね。
D:こういう不平等は身近にもあるよね。美しさでいえば、私の容姿やファッションが他の人にどう見られているかを気にして、喜んだり落ち込んだりすることがあるし、私も他人を外見で判断してしまうことがある。
F:他人と自分を比べるうちに妬みの感情に陥ってしまいそう。ニーチェの言うe ルサンチマンとも関係あるのかな。
E:すると、そもそも人の美しさを評価すること自体、やめた方がいいんだろうか。こうあるべき、という基準を押し付けることになるから。
F:良さを感じたり憧れたりすること自体は否定しなくてもいいんじゃない?それぞれの人のf 個性を美しさとして捉えられるように、多様な見方を身に付けるようになれるといいと思うんだ。
D:人の外見よりも、内面に注目してはどうだろう。人の生き方に共感したり、憧れたりすることが、本当の意味で美しさを感じることかもね。
下線部eに関して、ルサンチマンに基づいているとニーチェが批判した思想の例として最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。
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問題
大学入学共通テスト(公民)試験 令和6年度(2024年度)本試験 問53(倫理(第3問) 問6) (訂正依頼・報告はこちら)
次の会話は、ある日の授業の後に高校生D、E、Fが交わしたものである。
D:今日の倫理の授業はいつもと随分違っていたね。a ルネサンス期の絵画を見て、その中で何が起きているか考えるって、美術の時間みたいだった。
E:でも倫理っぽいとも思ったよ。考えたことだけじゃなくて、なぜそう考えたかもみんなと話し合ったから、頭を一杯使ったし、緊張したなあ。
F:それにしても、同じ絵なのに、注目するところもどう感じるかも、人によって違うのは面白かったな。
E:そういえば、教科書の中で、b 宗教改革の思想を扱ったところに、ルターの肖像画があるじゃない?厳格そうな雰囲気がして私は苦手なんだけど、誠実さが伝わってきて清々しいという友達もいて驚いたな。でも、倫理の問題と違って、芸術は結局、人それぞれの好みで楽しむものなのに、話し合うことに意味があるのかな?それに、感動ってそもそも言葉で表しにくいものじゃない?説明を求めるのは無理があるよ。
F:確かにそういう面もあるだろうけど、他の人が何にc 美を感じるのかを知ることで視野が広がるということもあると思うよ。
D:視野を広げるのは大事だと思うけど、話し合うのがいい方法なのかな。芸術の専門家に正しい見方を教えてもらう方が、偏りがないと思う。d 時代を超えて受け継がれた名作ってあるよね?正しい見方が分かれば、そういう古典の良さも分かるはずだし、それが成長することじゃないかな。
E:この作品がいいと教わったから私もそれがいいと思う、というのはなんだか自分の気持ちに噓(うそ)をついているみたいだ。それに芸術作品について、これが正しい見方だと決めつけてしまうと、逆に視野が狭くならないかな。
F:専門家に学ぶのは大事だけど、専門家自身、決まった正しい見方を知っているというより、日々知識を深めながら、自分とは異なる考え方も吟味して、よりよい見方を目指しているんじゃないかな。
上記の会話の後、次の倫理の授業で以下の資料が配付され、D、E、Fはその資料について話し合った。
資料 ルソー『人間不平等起源論』より
人は様々な対象を眺めて比較することに慣れる。知らず知らずのうちに、長所と美についての観念を獲得し、これが選(え)り好みの感情を生み出す。……人々は小屋の前や大木の周りに集まることに慣れた。……各人は他人に注目し、自分自身も注目されたいと思い始め、こうして( a )が価値あるものとなった。最も上手く歌ったり踊ったりする者、最も美しい者、最も強い者、最も器用な者、あるいは最も雄弁な者が、最も尊敬される者となった。そしてこれが不平等への、また同時に悪徳への第一歩であった。この最初の選り好みから、一方で虚栄と軽蔑とが、他方で恥辱と羨望とが生まれた。
E:自然状態では( b )と他者への思いやりに導かれていた人間が、( c )を通じて自由と平等を失ったというルソーの説は知っていたけど、資料によると、彼は( a )によって生じた不平等のことも考えたんだね。
D:こういう不平等は身近にもあるよね。美しさでいえば、私の容姿やファッションが他の人にどう見られているかを気にして、喜んだり落ち込んだりすることがあるし、私も他人を外見で判断してしまうことがある。
F:他人と自分を比べるうちに妬みの感情に陥ってしまいそう。ニーチェの言うe ルサンチマンとも関係あるのかな。
E:すると、そもそも人の美しさを評価すること自体、やめた方がいいんだろうか。こうあるべき、という基準を押し付けることになるから。
F:良さを感じたり憧れたりすること自体は否定しなくてもいいんじゃない?それぞれの人のf 個性を美しさとして捉えられるように、多様な見方を身に付けるようになれるといいと思うんだ。
D:人の外見よりも、内面に注目してはどうだろう。人の生き方に共感したり、憧れたりすることが、本当の意味で美しさを感じることかもね。
下線部eに関して、ルサンチマンに基づいているとニーチェが批判した思想の例として最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。
- 自らの欲望に従うのは自分勝手で道徳的に許されないから、自己を顧みず他者のために奉仕し、人類愛に生きるべきである。
- 世界には本来善も悪もないのであって、既存の規範にとらわれず新たな価値を創造することが必要である。
- 近代の進展につれて伝統的な信仰が衰え、人間は最高の価値を失ったが、その状況を耐え抜くことが必要である。
- 自己の生をありのままに引き受け、積極的に肯定する運命愛の立場に立つことによって、人々は超人を目指すべきである。
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この過去問の解説 (1件)
01
この問題では、ニーチェの思想の中でも特に「ルサンチマン」(怨恨・憎悪の感情に根ざした価値判断)に基づいていると批判された立場を見抜くことがポイントです。ニーチェは、弱者が強者への憎しみから「強さ=悪、弱さ=善」とするような価値転倒を行ったと考え、これを「奴隷道徳」と呼んで否定しました。では、問題を見ていきましょう。
この選択肢は、自分の欲望を否定し、他者への奉仕を美徳とする考え方です。これはニーチェが「奴隷道徳」として批判した立場そのものであり、ルサンチマンに基づいているとされます。妬みや怨恨から「他人のために尽くすことが善」という価値を打ち立て、自らの弱さを正当化するからです。この選択肢が正解です。
この選択肢は、ニーチェが肯定した「価値の転換」や「超人思想」に基づいた考えです。世界に絶対的な善悪がないとした上で、自ら新たな価値を創造しようとする点で、ルサンチマン的ではなく、むしろ能動的で創造的な立場といえます。
この選択肢は、近代的ニヒリズムの問題を踏まえて、その克服を求める立場です。価値の喪失という状況に直面しつつ、それを耐え抜くという点で、ルサンチマンのような怨恨による価値判断とは異なります。批判の対象とは言えません。
この選択肢は、ニーチェの「運命愛」や「超人思想」をそのまま表しています。自己の生を受け入れ、他者や既存の価値にとらわれず、自らの力で肯定していこうとする態度は、ルサンチマンとは正反対の立場にあります。
この問題では、ニーチェの考える「ルサンチマン」の特徴を押さえることが重要でした。他者への奉仕や自己犠牲を美徳とする道徳が、弱者の怨恨から生まれた価値観として批判されていたことを理解しましょう。選択肢1がそれに該当する正解でした。ここを中心に学習しましょう。
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