大学入学共通テスト(公民) 過去問
令和6年度(2024年度)本試験
問52 (倫理(第3問) 問5)

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問題

大学入学共通テスト(公民)試験 令和6年度(2024年度)本試験 問52(倫理(第3問) 問5) (訂正依頼・報告はこちら)

以下を読み、後の問いに答えよ。なお、会話と問いのD、E、Fは各々全て同じ人物である。

次の会話は、ある日の授業の後に高校生D、E、Fが交わしたものである。

D:今日の倫理の授業はいつもと随分違っていたね。a ルネサンス期の絵画を見て、その中で何が起きているか考えるって、美術の時間みたいだった。
E:でも倫理っぽいとも思ったよ。考えたことだけじゃなくて、なぜそう考えたかもみんなと話し合ったから、頭を一杯使ったし、緊張したなあ。
F:それにしても、同じ絵なのに、注目するところもどう感じるかも、人によって違うのは面白かったな。
E:そういえば、教科書の中で、b 宗教改革の思想を扱ったところに、ルターの肖像画があるじゃない?厳格そうな雰囲気がして私は苦手なんだけど、誠実さが伝わってきて清々しいという友達もいて驚いたな。でも、倫理の問題と違って、芸術は結局、人それぞれの好みで楽しむものなのに、話し合うことに意味があるのかな?それに、感動ってそもそも言葉で表しにくいものじゃない?説明を求めるのは無理があるよ。
F:確かにそういう面もあるだろうけど、他の人が何にc を感じるのかを知ることで視野が広がるということもあると思うよ。
D:視野を広げるのは大事だと思うけど、話し合うのがいい方法なのかな。芸術の専門家に正しい見方を教えてもらう方が、偏りがないと思う。d 時代を超えて受け継がれた名作ってあるよね?正しい見方が分かれば、そういう古典の良さも分かるはずだし、それが成長することじゃないかな。
E:この作品がいいと教わったから私もそれがいいと思う、というのはなんだか自分の気持ちに噓(うそ)をついているみたいだ。それに芸術作品について、これが正しい見方だと決めつけてしまうと、逆に視野が狭くならないかな。
F:専門家に学ぶのは大事だけど、専門家自身、決まった正しい見方を知っているというより、日々知識を深めながら、自分とは異なる考え方も吟味して、よりよい見方を目指しているんじゃないかな。

上記の会話の後、次の倫理の授業で以下の資料が配付され、D、E、Fはその資料について話し合った。

資料 ルソー『人間不平等起源論』より
人は様々な対象を眺めて比較することに慣れる。知らず知らずのうちに、長所と美についての観念を獲得し、これが選(え)り好みの感情を生み出す。……人々は小屋の前や大木の周りに集まることに慣れた。……各人は他人に注目し、自分自身も注目されたいと思い始め、こうして( a )が価値あるものとなった。最も上手く歌ったり踊ったりする者、最も美しい者、最も強い者、最も器用な者、あるいは最も雄弁な者が、最も尊敬される者となった。そしてこれが不平等への、また同時に悪徳への第一歩であった。この最初の選り好みから、一方で虚栄と軽蔑とが、他方で恥辱と羨望とが生まれた。

E:自然状態では( b )と他者への思いやりに導かれていた人間が、( c )を通じて自由と平等を失ったというルソーの説は知っていたけど、資料によると、彼は( a )によって生じた不平等のことも考えたんだね。
D:こういう不平等は身近にもあるよね。美しさでいえば、私の容姿やファッションが他の人にどう見られているかを気にして、喜んだり落ち込んだりすることがあるし、私も他人を外見で判断してしまうことがある。
F:他人と自分を比べるうちに妬みの感情に陥ってしまいそう。ニーチェの言うe ルサンチマンとも関係あるのかな。
E:すると、そもそも人の美しさを評価すること自体、やめた方がいいんだろうか。こうあるべき、という基準を押し付けることになるから。
F:良さを感じたり憧れたりすること自体は否定しなくてもいいんじゃない?それぞれの人のf 個性を美しさとして捉えられるように、多様な見方を身に付けるようになれるといいと思うんだ。
D:人の外見よりも、内面に注目してはどうだろう。人の生き方に共感したり、憧れたりすることが、本当の意味で美しさを感じることかもね。

資料と会話中のa~cに入る語句の組合せとして最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。
  • a:一般意志   b:自己愛   c:土地の所有
  • a:一般意志   b:神への愛  c:土地の所有
  • a:一般意志   b:自己愛   c:共和国の設立
  • a:一般意志   b:神への愛  c:共和国の設立
  • a:世間の評判  b:自己愛   c:土地の所有
  • a:世間の評判  b:神への愛  c:土地の所有
  • a:世間の評判  b:自己愛   c:共和国の設立
  • a:世間の評判  b:神への愛  c:共和国の設立

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この過去問の解説 (1件)

01

この問題では、ルソーの『人間不平等起源論』における人間関係や価値意識の変化について問われています。ルソーは自然状態における人間の特徴と、それが社会的な要素によってどのように変化していくかを丁寧に論じており、その思想を正確に理解することが重要です。

選択肢1. a:一般意志   b:自己愛   c:土地の所有

この選択肢は、a に「一般意志」を入れていますが、「一般意志」は社会契約論における政治的概念であり、資料で語られる他人の評価や虚栄とは関連しません。b に「自己愛」を入れている点は適当ですが、a の不適切さからこの選択肢は誤りです。

選択肢2. a:一般意志   b:神への愛  c:土地の所有

この選択肢は、b に「神への愛」を入れていますが、ルソーの自然状態での人間の性質は「自己愛(アムール・ド・スワ)」と「憐れみ(ピティエ)」です。「神への愛」はここでは不適当です。よってこの選択肢は誤りです。

選択肢3. a:一般意志   b:自己愛   c:共和国の設立

この選択肢は、c に「共和国の設立」を入れていますが、資料で語られているのは人々が他人から注目されたいという欲求によって起こる道徳的堕落であり、それは社会構造の中での「土地の所有」によって発生したとされる不平等とは異なります。よって誤りです。

選択肢4. a:一般意志   b:神への愛  c:共和国の設立

この選択肢は、a に「一般意志」、b に「神への愛」、c に「共和国の設立」と、いずれもこの資料の趣旨と一致しない語句が並んでいます。不適切です。

選択肢5. a:世間の評判  b:自己愛   c:土地の所有

この選択肢は、a に「世間の評判」、b に「自己愛」、c に「土地の所有」と、いずれも資料とルソーの思想に合致します。a は人から注目されたいという欲求、b は自然状態の人間の基本的性質、c は社会的な不平等の始まりを示しています。適当です。

選択肢6. a:世間の評判  b:神への愛  c:土地の所有

この選択肢は、b に「神への愛」を入れていますが、ルソーの自然状態の人間の感情としては不適当です。よって誤りです。

選択肢7. a:世間の評判  b:自己愛   c:共和国の設立

この選択肢は、c に「共和国の設立」を入れていますが、ルソーによる不平等の始まりは「土地の所有」であり、この選択肢は不正確です。

選択肢8. a:世間の評判  b:神への愛  c:共和国の設立

この選択肢は、b に「神への愛」、c に「共和国の設立」としており、いずれも文脈から外れています。誤りです。

まとめ

この問題では、ルソーが描いた自然状態と社会的状態の違いに注目し、特に人々が他者の評価を気にしはじめる「世間の評判」が不平等の起点とされること、自然状態では「自己愛」と「憐れみ」が中心的感情であること、「土地の所有」が社会的不平等の発端として論じられていることがポイントでした。したがって、この三点に着目して選択肢を吟味することが重要です。

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