大学入学共通テスト(公民) 過去問
令和6年度(2024年度)本試験
問55 (倫理(第3問) 問8)
問題文
次の会話は、ある日の授業の後に高校生D、E、Fが交わしたものである。
D:今日の倫理の授業はいつもと随分違っていたね。a ルネサンス期の絵画を見て、その中で何が起きているか考えるって、美術の時間みたいだった。
E:でも倫理っぽいとも思ったよ。考えたことだけじゃなくて、なぜそう考えたかもみんなと話し合ったから、頭を一杯使ったし、緊張したなあ。
F:それにしても、同じ絵なのに、注目するところもどう感じるかも、人によって違うのは面白かったな。
E:そういえば、教科書の中で、b 宗教改革の思想を扱ったところに、ルターの肖像画があるじゃない?厳格そうな雰囲気がして私は苦手なんだけど、誠実さが伝わってきて清々しいという友達もいて驚いたな。でも、倫理の問題と違って、芸術は結局、人それぞれの好みで楽しむものなのに、話し合うことに意味があるのかな?それに、感動ってそもそも言葉で表しにくいものじゃない?説明を求めるのは無理があるよ。
F:確かにそういう面もあるだろうけど、他の人が何にc 美を感じるのかを知ることで視野が広がるということもあると思うよ。
D:視野を広げるのは大事だと思うけど、話し合うのがいい方法なのかな。芸術の専門家に正しい見方を教えてもらう方が、偏りがないと思う。d 時代を超えて受け継がれた名作ってあるよね?正しい見方が分かれば、そういう古典の良さも分かるはずだし、それが成長することじゃないかな。
E:この作品がいいと教わったから私もそれがいいと思う、というのはなんだか自分の気持ちに噓(うそ)をついているみたいだ。それに芸術作品について、これが正しい見方だと決めつけてしまうと、逆に視野が狭くならないかな。
F:専門家に学ぶのは大事だけど、専門家自身、決まった正しい見方を知っているというより、日々知識を深めながら、自分とは異なる考え方も吟味して、よりよい見方を目指しているんじゃないかな。
上記の会話の後、次の倫理の授業で以下の資料が配付され、D、E、Fはその資料について話し合った。
資料 ルソー『人間不平等起源論』より
人は様々な対象を眺めて比較することに慣れる。知らず知らずのうちに、長所と美についての観念を獲得し、これが選(え)り好みの感情を生み出す。……人々は小屋の前や大木の周りに集まることに慣れた。……各人は他人に注目し、自分自身も注目されたいと思い始め、こうして( a )が価値あるものとなった。最も上手く歌ったり踊ったりする者、最も美しい者、最も強い者、最も器用な者、あるいは最も雄弁な者が、最も尊敬される者となった。そしてこれが不平等への、また同時に悪徳への第一歩であった。この最初の選り好みから、一方で虚栄と軽蔑とが、他方で恥辱と羨望とが生まれた。
E:自然状態では( b )と他者への思いやりに導かれていた人間が、( c )を通じて自由と平等を失ったというルソーの説は知っていたけど、資料によると、彼は( a )によって生じた不平等のことも考えたんだね。
D:こういう不平等は身近にもあるよね。美しさでいえば、私の容姿やファッションが他の人にどう見られているかを気にして、喜んだり落ち込んだりすることがあるし、私も他人を外見で判断してしまうことがある。
F:他人と自分を比べるうちに妬みの感情に陥ってしまいそう。ニーチェの言うe ルサンチマンとも関係あるのかな。
E:すると、そもそも人の美しさを評価すること自体、やめた方がいいんだろうか。こうあるべき、という基準を押し付けることになるから。
F:良さを感じたり憧れたりすること自体は否定しなくてもいいんじゃない?それぞれの人のf 個性を美しさとして捉えられるように、多様な見方を身に付けるようになれるといいと思うんだ。
D:人の外見よりも、内面に注目してはどうだろう。人の生き方に共感したり、憧れたりすることが、本当の意味で美しさを感じることかもね。
次のノートは、Fが授業の後に書いたものである。さらに前の会話と授業中の会話も踏まえて、ノート中の( d )に入るものとして最も適当なものを、後のうちから一つ選べ。
ノート
今回の授業で、人の美しさを考えるときに、内面に注目する、というDの提案にははっとさせられた。それとともに、多様な見方を身に付ける、という私の考えがむしろ裏付けられているとも思った。自身の価値観や好みにこだわっていては、自分と違う人生を生きている相手を理解できないのではないか。
その前の回の授業で、絵画について話し合ったときも、作品をよく理解しようとすることはもちろんだけど、そうする中で、鑑賞している私たちのことも語って、お互いを理解し合おうとしていたと思う。「美しい」とか「きれいだ」とか、確かに私たちは同じ言葉を使っているけれど、どんな意味で使っているのかは人によって違うし、はっきり定義して使っているわけでもない。だから、Eが感動を説明するのは無理があると言ったのも理解できる。でもだからこそ、( d )ことが、相手のことも自身のことも、よく知る手立てになるのだと思う。
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問題
大学入学共通テスト(公民)試験 令和6年度(2024年度)本試験 問55(倫理(第3問) 問8) (訂正依頼・報告はこちら)
次の会話は、ある日の授業の後に高校生D、E、Fが交わしたものである。
D:今日の倫理の授業はいつもと随分違っていたね。a ルネサンス期の絵画を見て、その中で何が起きているか考えるって、美術の時間みたいだった。
E:でも倫理っぽいとも思ったよ。考えたことだけじゃなくて、なぜそう考えたかもみんなと話し合ったから、頭を一杯使ったし、緊張したなあ。
F:それにしても、同じ絵なのに、注目するところもどう感じるかも、人によって違うのは面白かったな。
E:そういえば、教科書の中で、b 宗教改革の思想を扱ったところに、ルターの肖像画があるじゃない?厳格そうな雰囲気がして私は苦手なんだけど、誠実さが伝わってきて清々しいという友達もいて驚いたな。でも、倫理の問題と違って、芸術は結局、人それぞれの好みで楽しむものなのに、話し合うことに意味があるのかな?それに、感動ってそもそも言葉で表しにくいものじゃない?説明を求めるのは無理があるよ。
F:確かにそういう面もあるだろうけど、他の人が何にc 美を感じるのかを知ることで視野が広がるということもあると思うよ。
D:視野を広げるのは大事だと思うけど、話し合うのがいい方法なのかな。芸術の専門家に正しい見方を教えてもらう方が、偏りがないと思う。d 時代を超えて受け継がれた名作ってあるよね?正しい見方が分かれば、そういう古典の良さも分かるはずだし、それが成長することじゃないかな。
E:この作品がいいと教わったから私もそれがいいと思う、というのはなんだか自分の気持ちに噓(うそ)をついているみたいだ。それに芸術作品について、これが正しい見方だと決めつけてしまうと、逆に視野が狭くならないかな。
F:専門家に学ぶのは大事だけど、専門家自身、決まった正しい見方を知っているというより、日々知識を深めながら、自分とは異なる考え方も吟味して、よりよい見方を目指しているんじゃないかな。
上記の会話の後、次の倫理の授業で以下の資料が配付され、D、E、Fはその資料について話し合った。
資料 ルソー『人間不平等起源論』より
人は様々な対象を眺めて比較することに慣れる。知らず知らずのうちに、長所と美についての観念を獲得し、これが選(え)り好みの感情を生み出す。……人々は小屋の前や大木の周りに集まることに慣れた。……各人は他人に注目し、自分自身も注目されたいと思い始め、こうして( a )が価値あるものとなった。最も上手く歌ったり踊ったりする者、最も美しい者、最も強い者、最も器用な者、あるいは最も雄弁な者が、最も尊敬される者となった。そしてこれが不平等への、また同時に悪徳への第一歩であった。この最初の選り好みから、一方で虚栄と軽蔑とが、他方で恥辱と羨望とが生まれた。
E:自然状態では( b )と他者への思いやりに導かれていた人間が、( c )を通じて自由と平等を失ったというルソーの説は知っていたけど、資料によると、彼は( a )によって生じた不平等のことも考えたんだね。
D:こういう不平等は身近にもあるよね。美しさでいえば、私の容姿やファッションが他の人にどう見られているかを気にして、喜んだり落ち込んだりすることがあるし、私も他人を外見で判断してしまうことがある。
F:他人と自分を比べるうちに妬みの感情に陥ってしまいそう。ニーチェの言うe ルサンチマンとも関係あるのかな。
E:すると、そもそも人の美しさを評価すること自体、やめた方がいいんだろうか。こうあるべき、という基準を押し付けることになるから。
F:良さを感じたり憧れたりすること自体は否定しなくてもいいんじゃない?それぞれの人のf 個性を美しさとして捉えられるように、多様な見方を身に付けるようになれるといいと思うんだ。
D:人の外見よりも、内面に注目してはどうだろう。人の生き方に共感したり、憧れたりすることが、本当の意味で美しさを感じることかもね。
次のノートは、Fが授業の後に書いたものである。さらに前の会話と授業中の会話も踏まえて、ノート中の( d )に入るものとして最も適当なものを、後のうちから一つ選べ。
ノート
今回の授業で、人の美しさを考えるときに、内面に注目する、というDの提案にははっとさせられた。それとともに、多様な見方を身に付ける、という私の考えがむしろ裏付けられているとも思った。自身の価値観や好みにこだわっていては、自分と違う人生を生きている相手を理解できないのではないか。
その前の回の授業で、絵画について話し合ったときも、作品をよく理解しようとすることはもちろんだけど、そうする中で、鑑賞している私たちのことも語って、お互いを理解し合おうとしていたと思う。「美しい」とか「きれいだ」とか、確かに私たちは同じ言葉を使っているけれど、どんな意味で使っているのかは人によって違うし、はっきり定義して使っているわけでもない。だから、Eが感動を説明するのは無理があると言ったのも理解できる。でもだからこそ、( d )ことが、相手のことも自身のことも、よく知る手立てになるのだと思う。
- 芸術作品をめぐる対話では様々な見方が示されるとしても、自分の感覚を信じて、相手の考えに惑わされることなく自分の意見を語る
- 自分がどう感じたかを語りつつ、その根拠として芸術作品の特徴をなるべく具体的に挙げることによって、相手から同意を引き出す
- 芸術作品の正しい見方を身に付けようとする者同士が、専門家の語った言葉を模範として、互いに作品について語り合うことで、切磋琢磨する
- 芸術作品について話し合う中で、手探りでお互いの言葉の使い方を確かめながら、感じ方が違う部分と、共通している部分とを見付けていく
正解!素晴らしいです
残念...
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