正解は 4 です
1:×
投与されている輸液は中心静脈カテーテルより、維持液(カテーテルの目詰まりを予防する目的)としても投与されており、単なる水分補給を目的としているようなこの説明の方法では不適切です。
(確かに水分摂取の必要はありますが、それは選択肢4の解説の通り「水分が足りない」のではなく「尿の濃度を薄める」ためで、決して水分不足ではありません)
10歳の子なら脱水の対処法はすぐに考えつき、「それなら自分で水分摂取するので必要ないだろう」と、勘違いにより間違った解釈をして最悪の場合、中心静脈カテーテルを勝手に抜去してしまおうとする危険性もあります。
中心静脈カテーテルは皮膚表面に付属の固定具を手術用の糸を利用し、縫いつける病院もありますが、万一それを行なっていなければ抜去による大量出血の恐れもあり、大変危険です。
小児への看護の場合、子供だからと説明をおざなりにせず、本人の理解度に合わせて正しい説明を心がけるべきです。
2:×
抗がん剤の投与は数十分~数時間で終了し、その後ずっと接続されている維持液は基本的に生理食塩水レベルの成分しか含まれていないことが多いです(入っていたとしてもミネラルやビタミン剤等のみ)。
Aちゃん本人が尿の原因となっている薬液には治療行為そのものよりも治療手段をダメにしないという目的の方が強く、維持液自体に白血病細胞をどうにかする効果はありません。
万一Aちゃんがその説明のおかしい部分に気づいた場合、適当にあしらわれ正しい説明をしてもらえなかったと自尊心を傷つけられ、その後の看護師との信頼関係と治療行為の受け入れに支障をきたす可能性もあります。
小児とはいえど説明は正しく、また本人が納得できるまで何度でも行う必要があります。
3:×
確かに抗癌剤の典型的な副作用には食欲不振や吐き気、口腔内粘膜の荒れによる食事量の低下がありますが、維持液だけでは食事の代わりを務めるだけの栄養素はありません。
そのためこの説明は誤りであり、不適切です。
4:○
癌の治療法には抗癌剤の投与や放射線等様々ありますが、どちらにせよ治療が成功した場合、体内にある癌細胞(今回の設問の場合は白血病細胞)は破壊され、体外に排出されることになります。
一度、癌細胞に侵された細胞は可逆的に回復して、もとの正常な細胞に戻る訳ではない以上、これは自然のことであり、体内から癌細胞が減少するということは、存在していた癌(に侵された細胞)が正常に破壊され死滅した、ということと同じ意味になります。
その破壊された癌細胞の成分は通常の細胞が死滅した場合と同様、体内に核酸(細胞には必ず核が存在します)・カリウム等の電解質・酸などを放出します。ここで問題になるのは、これが通常の細胞の死滅とは比べものにならないほど多量であることです。
通常、核酸は尿酸に分解・代謝されて腎臓より尿中に排泄されます。核酸が大量に放出されるということは、その分体内で作られる尿酸も多量になるということです。
尿酸は痛風を引き起こすことで有名な成分ですが、その尿酸が足の親指の関節などで結晶化した状態が痛風です。
尿酸はこの通り結晶化しやすく、またその結晶も拡大して見てみると、かなり鋭利な棘をもち、イガグリのような形をしています。
その尿酸が尿中に集まりますが、その量があまりに多量になると、尿の中で結晶化します。
その尿酸の結晶が尿細管や尿管などの尿の通り道に詰まってしまうと、尿の排出が滞り、急性腎不全等を引き起こし、場合によっては人工透析が必要となります。
この一連の流れは重篤な副作用として報告され、「腫瘍崩壊症候群」と呼ばれます。
癌細胞を減少させることが癌治療の大きな目的であり、その上で細胞を死滅させるということは避けられません。
その後の尿酸値の上昇、および尿中での結晶化を防ぎ、重篤な副作用の発生を防ぐため、以下の方法を行う必要があります。
1、水分摂取
飲水でも輸液でもどちらでもよく、尿中での結晶化を防ぐために尿自体の濃度を薄めます。また、万一結晶化しても尿管に詰まる前に押し流して体外に排出させます。体内の電解質のバランスが崩れるのを予防する意味もあります。
2、尿酸の生成の予防
核酸から尿酸を作ることを抑制する「アロプリノール」という薬を治療前から予防的に服用します。
3、炭酸水素ナトリウムの服用
クエン酸塩、重曹に含まれる炭酸水素ナトリウムは、体内環境をアルカリ性に傾けます。
体内がアルカリ性になると尿酸が水(尿)へ溶けやすくなり、尿中でも尿酸が結晶化しにくくなります。同時に尿酸により血液が酸性(アシドーシス)に傾くことも防ぎます。
4、体内の尿酸の分解を促す
尿酸を分解する「ラスブリカーゼ」という薬を使います。2010 年に販売を開始した薬で、尿酸を分解することで血液中の尿酸を減少させます。
よって、Aちゃん本人にもこの「細胞の死滅→その際に出たゴミ(尿酸)が尿として排出→尿中で結晶化して詰まる危険性→多量の尿によって排出する必要がある」という一連の流れを10歳でも理解できるよう説明し、尿量が減ったり我慢すると危険であることを伝えることが重要です。
また、この腫瘍崩壊症候群の発生は通常治療開始後 12時間~72 時間以内に発生しやすいとされているため、それ以降の抗癌剤の治療が予定されていないのであれば、治療後に輸液が投与されるのは限定的な時間だけであり、輸液が永遠に続く訳ではないことを説明してあげるのもよいでしょう。
子供とはいえ10歳にもなれば自分の病状をなんとなくは理解することが可能なため、説明を怠ることなく治療行為に参加してもらうことが重要です。
白血病の治療ー国立がん研究センター
https://ganjoho.jp/child/cancer/leukemia/treatment.html
重篤副作用疾患別対応マニュアル-腫瘍崩壊症候群-(PDF)ー厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000013qef-att/2r98520000013r8d.pdf