公認心理師の過去問
第3回(2020年)
午前 問54

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問題

公認心理師試験 第3回(2020年) 午前 問54 (訂正依頼・報告はこちら)

トラウマや心的外傷後ストレス障害<PTSD>に関連するものとして、適切なものを2つ選べ。
  • PTSDの生涯有病率は、男性の方が高い。
  • PTSD関連症状に、薬物療法は無効である。
  • 心的外傷的出来事による身体的影響は少ない。
  • 治療開始の基本は、クライエントの生活の安全が保障されていることである。
  • 複雑性PTSDは、複数の、又は長期間にわたる心的外傷的出来事への暴露に関連する、より広範囲の症状を示す。

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この過去問の解説 (2件)

01

正答は4と5です。

PTSDとは、通常体験する範囲を超えた出来事(心的外傷的出来事)によって、強烈なストレスを受けた後に生じる反応のことを表します。主な症状としては、「再体験(フラッシュバック)」「回避」「否定的感情と認知」「覚醒亢進」などが挙げられます。

1 一般的に女性の方がPTSDの生涯有症率が高い傾向があります(男性:約5%、女性:約10%)。そのため、記述は誤りとなります。

2 PTSDの治療においては、認知行動療法やEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)などの心理療法が有効とされているほか、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)等の抗うつ薬や抗不安薬による薬物療法も効果があるとされています。したがって、「無効である」との記述は誤りとなります。

なお、PTSDはうつ病や不安障害が併発しやすいと言われており、これらの症状を軽減するためにも抗うつ薬や抗不安薬などの薬物療法が用いられます。

3 恐怖や不安から(過度に)緊張した状態となり、不眠や動悸などの様々な身体的影響が生じるとされています。したがって、記述は誤りとなります。

4 記述のとおりです。安心できる関係性を作り、安全な環境で過ごせるように整えていくことが肝要であると言われています。

5 記述のとおりです。PTSDは1つの心的外傷的出来事に関連付けられることが多い一方で、複雑性PTSDは複数又は長期間にわたる心的外傷的出来事に曝されることで生じます。特に、長期間の虐待(身体的、精神的、性的、ネグレクト等)によるものが多いとされています。

なお、複雑性PTSDでは、上述したPTSDの代表的な症状のほか、「感情のコントロールの困難さ」「対人関係の障害」「否定的自己認知」などの症状も見られることが特徴です。

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02

正答は4と5です。

心的外傷後ストレス障害〈PTSD〉(Post-Traumatic Stress Disorder)とは、自分または他者の生命や身体に脅威を及ぼし、精神的衝撃を与える出来事(災害、暴力、性的暴力、戦争、重度事故、虐待など)を、直接または間接的に体験することで起こる精神疾患です。

心的外傷後ストレス障害はDSM-5において、不安障害から「心的外傷およびストレス因関連障害群」の一つとして、新たなカテゴリーに移りました。

このカテゴリーには他に、「反応性アタッチメント障害」「脱抑制型対人交流障害」「急性ストレス障害」「適応障害」が含まれています。

症状は、DSM-IV-TRでは3つのカテゴリーに大別されていましたが、DSM-5では「侵入症状」「回避」「認知と気分の陰性の変化」「覚醒度と反応性の著しい変化」の4つのカテゴリーに改訂されました。

また、6歳以下の小児の基準も示されました。

「侵入症状」とは、自分では思い出したくないのにトラウマ体験の記憶が繰り返し想起され、その時と同様の心身の苦痛が生じるという症状です。トラウマ体験の悪夢を繰り返し見たり、その時の体験を生々しく再体験するフラッシュバックも侵入症状の一つです。

「回避」とは、トラウマ体験に関連する記憶、思考、感情やそれらを呼び起こす人・会話・場所・物事・状況を回避することです。

「認知と気分の陰性の変化」とは、解離性健忘、自分・他者・世界に対する否定的な信念、ネガティブな感情、活動性の低下、孤立感、ポジティブな感情を感じられないなどです。

「覚醒度と反応性の著しい変化」とは、イライラ感、無謀または自己破壊的な行動、過度の警戒心、過剰な驚愕反応、集中困難、睡眠障害などです。

DSM-5では、これらの症状が1ヶ月以上持続し、強い苦痛ないし生活上の機能障害を伴うとPTSDと診断されます。

1 .PTSDの生涯有病率についてですが、2005年の全米疫学調査では6.8%(男性3.6%、女性9.7%)と女性の方が高いという結果が報告されています。日本の疫学研究では、PTSDの生涯有病率は1.3%と報告されています。

また、PTSDの頻度は、一般に男性よりも女性の方が高い傾向にあります。

よって、選択肢1 は誤りです。

2 . PTSDの治療に薬物療法は有効であり、以下のような効果が期待できます。 

 ・中核症状の緩和・軽減

 ・抑うつ症状などの合併症の緩和・軽減

 ・ 生活の質(QOL)の改善

 ・トラウマに焦点を当てた精神療法を行いやすくする

 ・再発予防

PTSDに対する薬物療法の第一選択薬はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)とされています。SSRIはPTSDの中核症状に対して改善効果が示されているだけでなく、抑うつ症状などの合併症に対しても効果が示されています。

よって、選択肢2 は誤りです。

3 . 心的外傷的出来事を体験した後には、不安、過敏、緊張、落ち着きのなさ、イライラ、集中力の低下などの精神症状だけでなく、動悸、呼吸困難、めまい、首や肩のこり、震え、不眠などの身体症状が現れることが多々あります。

出来事の体験から症状が1ヶ月以内で治まる場合は「急性ストレス障害(ASD:Acute Stress Disorder)」と診断され、長期にわたって持続する場合には、PTSDが疑われます。

よって、選択肢3 は誤りです。

4 . 心的外傷的出来事を体験した方は、日常生活での問題や困難を抱えていることが多く、治療開始の最優先は「安全の確保」になります。現実的な問題や現在の生活の安全が確保されていないと、薬物療法や精神療法などの治療を開始しても効果的ではありません。まずは現実の問題を解決するための支援をしていく必要があります。

よって、選択肢4 は正しいです。

5 . PTSDには、戦争体験や災害経験など、一つのまとまった外傷体験による「単回性トラウマ」と、複数の、又は持続的(長期的)な外傷体験による「複雑性PTSD」があります。

複雑性PTSDは、DSM-5ではまだ認められておらず、ICD-11ではストレス関連症群に分類されています。

複雑性PTSDでは、逃げることのできない持続的な出来事によって、侵入症状、回避、過覚醒の主症状の他に、否定的な自己概念、対人関係上の困難、感情抑制の困難、対人関係の障害など、より広範囲の症状が生じます。

よって、選択肢5 は正しいです。

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