公認心理師の過去問
第3回(2020年)
午前 問66

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問題

公認心理師試験 第3回(2020年) 午前 問66 (訂正依頼・報告はこちら)

13歳の男子A、中学1年生。Aの学校でのテストの成績は中程度よりもやや上に位置している。試験に対しては出題される範囲をあらかじめ学習し、試験に臨む姿もよくみられる。しかし、その試験を乗り切ることだけを考え、試験が終わると全てを忘れてしまう質の低い学習をしているように見受けられる。勉強に対しても、ただ苦痛で面白くないと述べる場面が目につき、学習した内容が知識として定着していない様子も観察される。
現在のAの状況の説明として、最も適切なものを1つ選べ。
  • リテラシーが不足している。
  • メタ記憶が十分に発達していない。
  • 深化学習や発展学習が不足している。
  • 機械的暗記や反復練習が不足している。
  • 具体的操作期から形式的操作期へ移行できていない。

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この過去問の解説 (3件)

01

正答は3です。

1 リテラシーとは、識字率や読み書きの能力のことを指します。現在ではこれに限らず、「特定の分野の知識を活用する能力」といった意味で用いられるようになっています。

「Aの学校でのテストの成績は中程度よりもやや上に位置している。試験に対しては出題される範囲をあらかじめ学習し、試験に臨む姿もよくみられる。」との記述からは、読み書きの能力が大きく不足しているとは考え難いです。他の選択肢の方が適切であり、誤りとなります。

2 「メタ」とは「高次の」という意味を持ち、メタ記憶とは「記憶に関する記憶」、つまり、自分の記憶(ある事柄が自分の記憶の中に存在するかどうか)や記憶過程(記憶するための方法や工夫、記憶しやすいもの・記憶しにくいもの)に対する知識のことを指します。

成績は中程度よりやや上位であり、試験勉強及び試験において記憶の仕方などで困っている様子は窺えません。他の選択肢の方が適切であり、誤りとなります。

3 深化学習とは、概念の意味を理解する、既知の知識との関係性を把握することなどを指します。

発展学習とは、その知識の活用の仕方を考えたり、新たに生じた疑問を解決するために学習したりすることを指します。

「その試験を乗り切ることだけを考え、試験が終わると全てを忘れてしまう質の低い学習をしているように見受けられる。」との記載から、試験を乗り切るために出題範囲を機械的暗記・反復練習によって記憶することに終始しているため、知識の深まりや広がりが生まれず、学習内容は身に付かない状況であると想像されます。したがって正答です。

4 上述しましたが、Aは試験範囲を機械的暗記や反復練習で乗り切っているものと想像されます。Aに必要なことは、これらで身に付けた知識を深化・発展させることで定着を図ることであると考えられます。したがって、誤りとなります。

5 具体的操作期・形式的操作期はピアジェによる発達理論の用語です。

具体的操作期とは、6歳~12歳の脱自己中心性といった客観的な思考が可能になる時期であり、形式的操作期とは、12歳以降の記号や負の数が使えるようになるなど抽象的思考が可能になる時期と分類されています。

Aの成績は中程度よりやや上位とのことであり、抽象的思考ができず学習に遅れが生じているとは考えにくいため、誤りとなります。

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02

正答は3です。

Aは、試験に対してあらかじめ学習し、試験に臨み、試験の乗りきっているということですので、ある一定の学習意欲や学習能力はあると考えられます。

試験を乗りきったあとに全てを忘れるということから、学習の質や試験後の学習の在り方に、問題があると考えられます。

勉強に対して「苦痛で面白くない」ということから、Aは勉強を、「試験を乗りきるためのもの」「試験のための機械的な暗記」ととらえている可能性があります。

学習を深化させて、日常生活や身近な問題として発展させていくことが不足していますので、「深化学習や発展学習が不足している」という選択肢が最も適切です。

本来、勉強とはとても面白いものだ、とAが感じるようになる学習こそが、現在のAに必要であるといえるでしょう。

1.リテラシーとは、「識字」のことです。

「読み書きの能力」のことですので、試験を乗りきっているAには、あてはまるとはいえません。

2.メタ記憶は、自身の記憶に関する記憶(認知)のことです。

メタ記憶には、「宣言的なメタ記憶」と「手続き的なメタ記憶」があります。

「宣言的なメタ記憶」は、個人の記憶に関する知識や認知のことをさします。

「手続き的なメタ記憶」は、モニタリングやコントロール等の機能をさします。

Aは、試験のために学習し記憶した知識を想起して、コントロールして試験問題を解いていますので、「メタ記憶が発達していない」という選択肢は、現在のAの状況をあらわす説明としては、最も適切な選択肢とはいえません。

3.上記の解説の通りです。

4.Aは試験のために暗記をしていますので、「機械的暗記や反復練習が不足している」という説明は、適切とはいえません。

試験後に反復学習をしなかったから覚えてしまったことを忘れた、と解釈することもできなくはないですが、「Aが試験後も勉強を継続できるように質の高い学習をすること」のほうがAの状況に適していますので、この選択肢は誤りです。

5.13歳のAは、学校の成績は中程度よりもやや上ということですので、ピアジェ(Piaget, J.)が理論化している「形式的操作期」への認知発達は、なされていると考えられます。

「形式的操作期」は、数字や記号を活用した思考ができるようになり、抽象的な概念を使った思考ができるようになる時期のことです。

年齢でいえば11歳以降にあたります。

ピアジェによると、具体的操作期から形式的操作期へ移行することで、仮説を立てて思考することが可能となり、仮説による論理的操作を行えるようになります。

Aは試験問題を解く際に、論理的操作をしていますので、この選択肢は誤りです。

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03

正答は3です。

Aが行っているような学習法を「ごまかし勉強」と言います(藤澤伸介 『ごまかし勉強』 2002)。

「ごまかし勉強」とは、試験やテストに出そうな範囲のみを機械的暗記や反復練習で学習し、手抜きの態度で学習に臨み、試験が終われば全て忘れてしまう学習法です。

「ごまかし勉強」では、深化学習や発展学習が行われない為、学習に面白さを感じることもありませんし、学習内容も身につきません。

しかし範囲の限れられた試験やテストなどでは、「ごまかし勉強」である程度の成績が取れる為、効率的であり、教育現場にも蔓延していると言われています。

1 .リテラシー(literacy)とは、読み書き能力、識字力のことです。

現在では「○○リテラシー」という言い方をして、ある特定の分野に関する知識や理解能力、また、その知識や能力を有効活用する能力の意味合いで使われることもあります。

「Aの学校でのテストの成績は中程度よりもやや上に位置している」との記述から、Aが読み書き能力に問題があるとは考えにくいです。

したがって、選択肢1 は誤りです。

2 .メタ認知とは、自己の認知活動(思考,知覚,記憶など)や自己の行動を客観的に認知することを意味し、メタ記憶は、そのうちの記憶に関する認知活動や行動(記憶過程など)に対する客観的な認知を指します(上原,2011)。

http://repository.tufs.ac.jp/bitstream/10108/65740/2/acs082015_ful.pdf

メタ記憶では、記憶の「モニタリング」と「コントロール」が中核機能です。すなわち、自分の記憶状態、覚えているかどうかを認識したり、より効果的に記憶するための方法を考えたりといった行動などが含まれます。

問題文の「試験に対しては出題される範囲をあらかじめ学習し」「テストの成績は中程度よりもやや上」との記述から、試験の出題範囲を機械的に暗記したり、反復練習したりすることによって効果的に記憶し、試験を乗り切っていると判断できます。

よって、選択肢2 「メタ記憶が十分に発達していない」は不適切だと考えられます。

3 .「深化学習」とは、概念の意味を理解したり、既知の知識との関係性を把握したりすることによって、より深く掘り下げて理解していく学習のことです。

「発展学習」とは、その知識が活用できる場面を考えたり、他の分野の知識と関連づけたり、新たに生じた疑問を解決する為に調べたりするなどの学習のことです。

「ごまかし勉強」で学習内容が身に付いていないAに不足しているのは「深化学習」や「発展学習」などの有意味学習です。学習者の知的成長を促すような「正統派の学習」(藤澤,2002)では、学校の授業での動機付けに基づき、学習内容を発展、深化させ、さらに記憶に定着させる作業が必要です。「深化学習」や「発展学習」には、学ぶことの楽しさがあり、深い学びに繋がります。

よって、選択肢3「深化学習や発展学習が不足している」が正しいです。

4 .Aは、試験に出る限定的な範囲だけを機械的に暗記したり、反復練習したりする「ごまかし勉強」によって、効率的にある程度良い成績をとっていると推測できます。

よって、選択肢4「機械的暗記や反復練習が不足している」は誤りとなります。

5 .「具体的操作期」「形式的操作期」とは、ピアジェの発達理論の用語です。

「具体的操作期」(6歳〜12歳頃):具体的な事物に関し、実際に触れなくても頭の中で持ち上げたり、回転させたりといった心的操作によるシェマの形成が可能になります。保存の概念を獲得し、論理的な思考が可能になります。自己中心性から脱し、他者の視点を理解できるようになる脱中心化の時期です。

「形式的操作期」(12歳頃以降):抽象的な概念や仮説的な事物に対しても、心的操作が可能となります。

Aは13歳・中学1年生なので「形式的操作期」に当たります。「学校でのテストの成績は中程度よりもやや上に位置している」とのことなので、Aが「具体的操作期から形式的操作期に移行できていない」と考えるのは適切ではないでしょう。

よって、選択肢5 は誤りです。

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