公認心理師の過去問
第3回(2020年)
午前 問69
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問題
公認心理師試験 第3回(2020年) 午前 問69 (訂正依頼・報告はこちら)
16歳の女子A、高校1年生。Aは、食欲不振、るい痩のため1週間前から入院中である。高校に入学し、陸上部に入部した後から食事摂取量を減らすようになった。さらに、毎朝6時から走り込みを始めたところ、4か月前から月経がなくなり、1か月前から倦怠感を強く自覚するようになった。入院後も食事摂取量は少なく、「太ると良い記録が出せない」と食事を摂ることへの不安を訴える。中学校までは適応上の問題は特になく、学業成績も良好であった。自己誘発嘔吐や下剤の乱用はない。身長は159cm、体重は30kg、BMIは11.9である。
公認心理師のAへの支援として、不適切なものを1つ選べ。
公認心理師のAへの支援として、不適切なものを1つ選べ。
- 食事へのこだわりを外在化する。
- Aの家族に治療への参加を促す。
- 部活動への葛藤について傾聴する。
- 栄養士の助力を得て食事日記を付けることを勧める。
- 点滴を受けて、栄養状態を速やかに改善するように勧める。
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この過去問の解説 (3件)
01
正答は5です。
本文からAは、太ることへの恐怖が強く、食事制限によって低体重を維持しようとしている状態であり、摂食障害のひとつである「神経性無食欲症(制限型)」により入院に至っていることが窺えます。
1 外在化とは、形の伴わない問題を形のあるもの(対象化・人格化)にして本人から切り離すといった方法です。
Aと摂食に関する問題を区別し、「Aが悪い」という考えから、「Aは摂食の問題で困っている」と考えることで、本人の自己否定感を和らげ、問題に向き合う意欲を高めることが望めます。よって、不適切な対応とは言えません。
2 摂食障害(神経性無食欲症)においては、家族の理解や協力が大切であると言われています。家族に対して、心理教育や情報提供、家族自身へのケアを行うことによって、回復への資源として機能することが望まれます。そのため、家族を治療への参加を促す働きかけは、不適切な対応とは言えません。
3 Aは、回復したい一方で、痩せたままの方がうまくいく・変化することが怖いといった気持ちも強く、心理的に葛藤している状態にあることが推察されます。Aにとって、摂食の問題を解消することは、部活動で良い記録が出せなくなり、自身の価値が失われてしまうといった恐怖や葛藤を伴うこととなっています。これに対して傾聴し、共感的理解を示すことは、治療意欲の維持・向上につながる対応であると考えられます。よって、不適切な対応とは言えません。
4 栄養士の助力を得て日記を付けることは、食事をコントロールする上では有効な方法となり得ます。さらに、食事の状況を客観的に見ることができるため、日記を用いて、その時の心境や状態などを取り扱うことがしやすくなり、公認心理師の対応においても役立てることができると考えられます。よって、不適切な対応とは言えません。
5 公認心理師の対応といった観点から考えると、医療的な対応について判断や指示を行うことは、適切ではないと言えます。
医師につないだり、医師の判断や指示を仰いだりすることは公認心理師にも求められると考えられますが、「勧める」という表現ではあるものの選択肢を読む限りでは、公認心理師が必要性を判断しているように見受けられます。
なお、低栄養状態において、急速・過剰に栄養補充を行うことで発症する「リフィーディング症候群」が引き起こされるリスクもあることにも留意する必要があります。
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02
正答は5です。
摂食障害は、食行動の異常とそれに伴う認知や情動の障害に特徴づけられる精神疾患です。
https://www.edportal.jp/pro/index.html
(出典:摂食障害情報ポータルサイト)
DSM-5の摂食障害群には、「神経性やせ症(神経性無食欲症)」「神経性過食症(神経性大食症)」「過食性障害」などの精神疾患が含まれます。
「神経性やせ症」は、自分の体重・体型への認識が歪んでおり、期待される最低体重を下回っても、体重増加や肥満への強い恐怖を示す精神疾患です。成人ではBMIが18.5未満はやせ、15未満は最重度と診断されます。「神経性やせ症」には、食事摂取量を著しく減らす、もしくは食事をとらない「摂食制限型」と、過食し、自己誘発性嘔吐や下剤などによる排出行動をすることによって、体重増加を防ごうとする「過食・排出型」があります。
「神経性過食症」は、大量の食事をとることの制御ができず、また、過食による体重増加を防ぐために不適切な代償行動(自己誘発性嘔吐や下剤などによる排出行動など)を繰り返す精神疾患です。
「過食性障害」は、過食を繰り返しますが、不適切な代償行動は伴わない疾患です。
Aは「るい痩のため1週間前から入院中」「BMIは11.9」「入院後も食事摂取量は少なく、『太ると良い記録が出せない』と食事を摂ることへの不安を訴える」「自己誘発嘔吐や下剤の乱用はない」との記述から、「神経性やせ症」の摂食制限型に該当します。しかもBMIは11.9と低く、成人では最重度と診断される値です。
Aは著しい低体重のため1週間前から入院治療中です。低体重であるにもかかわらず、体重増加への強い恐怖がある様子から、おそらく院内の公認心理師による心理的対応が必要と判断されたのでしょう。
1 .心理療法の技法として「問題の外在化」とは、クライエントが抱えている問題を本人自身の問題として考えるのではなく、問題を切り離して本人の外部に設定することで解決を試みる手法です。クライエント本人の外部に設定することで、問題を客観的に捉えやすくなったり、不必要な自責を軽減させたりすることができます。
摂食障害のクライエントは低い自己評価や完全主義が特徴的です。また摂食障害の治療には家族のサポートも欠かせません。クライエント自身もその家族も摂食障害の問題を外在化し、クライエント本人と分けて考える対応を心掛けることによって、不必要にクライエントや家族が罪悪感を抱かずに、治療に向かえるよう支援していくのが適切です。
よって、選択肢1 「食事へのこだわりを外在化する」は適切な支援です。
2 .摂食障害の治療では、家族に対するサポートや家族療法を行うことが推奨されています。摂食障害の治療計画にできる限り家族を組み込み、家族に基本的な心理教育やサポートを提供することが必要です。
よって、選択肢2 「Aの家族に治療への参加を促す」は適切な支援です。
3 .摂食障害のクライエントは、「病気のままでいたい気持ち」と「治したい気持ち」の両方が存在します。このような葛藤的な気持ちがあることをクライエントが自覚できるように傾聴し、後者の気持ちに目を向けるよう促します。
よって、選択肢3「部活動への葛藤について傾聴する」は適切な支援です。
4 .摂食障害の疾病教育の中で、栄養療法の必要性を丁寧に説明することは重要な要素です。
特に摂食障害に関連する内容として、4~6時間以上の絶食はしないことが過食衝動の軽減につながること、適切な栄養摂取で血糖値が維持され精神状態も安定すること、栄養をとらずに運動だけしても筋力は増強されないこと、排出行動で失われる物質を補充する食品などについての指導が挙げられます。
また、摂食障害の治療には、睡眠、食事、症状などについて、自分で症状を記録する「症状モニタリング」が有効と言われています。そして、このような症状モニタリングを行いながら、治療に関する資料を読み、対処法を学ぶというアプローチは「ガイデッドセルフヘルプ(指導付きセルフヘルプ)」と呼ばれます。本人の自助努力(セルフヘルプ)を専門家がお手伝いするというイメージです。
http://fields.canpan.info/report/download?id=18435
出典:チームで取り組む摂食障害治療・支援ガイドブック 日本摂食障害協会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscap/58/4/58_532/_pdf
出典:〈教育公演〉西園マーハ 摂食障害の支援 児童青年精神医学とその接近領域 58(4)2017
よって、選択肢4「栄養士の助力を得て食事日記を付けることを勧める」は、専門家がお手伝いしながら、クライエント本人の治療参加を促す支援と言えるでしょう。
5 .著しい低栄養状態からの栄養療法開始時は、重篤な合併症であるリフィーディング症候群のリスクが高いので、慎重な対応が必要です。
リフィーディング症候群は、再栄養に伴う体液と電解質のシフトにより、低リン血症・低カリウム血症をはじめとする電解質異常、浮腫や胸水等の水分貯留、ビタミンB1欠乏などが生じ、時に生命に関わる危険性があります。そのため経口、経管いずれの栄養療法開始時にも、慎重なリスク評価・予防・モニタリングが重要となります。
よって、選択肢5「点滴を受けて、栄養状態を速やかに改善するように勧める」は、すでに入院治療により医師や医療スタッフが慎重に栄養療法を進めている中、公認心理師がこのような助言をすることは不適切な支援です。
また、公認心理師も神経性やせ症のクライエントにはリフィーディング症候群のリスクがあることを認識しておく必要があるでしょう。
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03
正答は5です。
16歳の女子Aの事例は、拒食型の摂食障害と考えられます。
公認心理師として、摂食障害患者へ支援を行うために、心理面と生活面、食事栄養の観点から多角的にアプローチする必要があります。
Aに医師の診察を受けてもらい、点滴が必要と判断された場合には、主治医の管理のもとAに点滴を受けてもらうように支援することはあるかもしれませんが、医師の診察を受けることなしに、公認心理師がAに点滴を勧めることはありません。
また、低栄養状態から急に栄養を入れると、リフィーディングシンドロームと呼ばれる拒絶反応を起こす場合があります。徐々にカロリーアップをしていく必要があります。
1.摂食障害は、自己のセルフイメージの歪みが原因となっているという特徴があります。
クライアントAの話を丁寧に聴き、内在化しているものを外在化していくことが、心理療法として有用です。
「太ると良い記録が出せない」という不安が聴かれますので、さらに、食事に対する思いやこだわりを、言葉で表現してもらい、不安に寄り添っていくことが、支援の一つとして挙げられます。
2.Aの家族に治療への参加を促すことは、とても有用です。
食行動障害および摂食障害群(DSM-5)のうち、神経性やせ病は、家族療法の有効性が報告されています。
3.部活動への葛藤について傾聴することは、1と同様に、公認心理師の支援の一つです。
Aは陸上部に入部した後から食事摂取量を減らしていますので、陸上部での部活動がAの食行動に影響を与えていることがうかがえます。
思春期の女子ですので、さまざまな想いや葛藤を抱えていることが推測されます。
丁寧に傾聴をしていくことが求められます。
4.栄養士の助力を得て食事日記を付けることを勧めることは、公認心理師の支援として適切です。
Aが家族の協力を得て、徐々にカロリーアップをしていくために、食事日記が役立ちます。
5.上記の解説の通りです。
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