公認心理師の過去問
第3回(2020年)
午前 問70

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問題

公認心理師試験 第3回(2020年) 午前 問70 (訂正依頼・報告はこちら)

72歳の男性A。Aは、高血圧症で通院している病院の担当医に物忘れが心配であると相談した。担当医の依頼で公認心理師Bが対応した。Aは、1年前より徐々に言いたいことがうまく言葉に出せず、物の名前が出てこなくなった。しかし、日常生活に問題はなく、趣味の家庭菜園を楽しみ、町内会長の役割をこなしている。面接時、軽度の語健忘はみられるが、MMSEは27点であった。2か月前の脳ドックで、頭部MRI検査を受け、軽度の脳萎縮を指摘されたという。
BのAへの助言として、不適切なものを1つ選べ。
  • 高血圧症の治療を続けてください。
  • 栄養バランスのとれた食事を心がけてください。
  • 運動習慣をつけて毎日体を動かすようにしてください。
  • 生活習慣病の早期発見のために定期的に健診を受けてください。
  • 認知症の予防に有効なお薬の処方について、医師に相談してください。

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この過去問の解説 (3件)

01

正答は5です。

高血圧症とは、血圧が高すぎる状態が長らく続く症状を指します。高血圧は自覚症状に乏しい症状ですが、放置していると脳卒中や心筋梗塞など重大な病気の要因となります。

治療においては、薬物治療のほか、適度な運動やバランスの良い食生活など、生活習慣の改善が肝要となります。

Aの状態について、日常生活に支障はないものの、軽度の脳萎縮が指摘され、認知機能の低下が窺えるエピソードも見られます。

なお、MMSE(精神状態短時間検査)とは、認知機能を評価するための検査であり、認知症のスクリーニング検査として用いられています。23点以下は認知症が疑われるとされています。

「27点」は『正常』と取られる場合と『軽度認知症の疑い』と取られる場合があります。

1 認知症の有無にかかわらず、高血圧症の治療を続けることは重要であり、助言としては適切であると考えられます。

2 高血圧症の治療において食事療法は有用であり、バランスの取れた食事を取ることを勧めることは適切であると考えられます。

3 高血圧症の治療において運動は有用であり、運動習慣をつけるといった助言は適切であると考えられます。

Aの状態を考慮して、運動療法の可否や運動量・強度・内容を相談するよう促すことも必要となるかもしれません。

4 生活習慣病が認知症のリスクを高めるとされており、生活習慣病の早期発見のための健診を促す助言は適切であると考えられます。

5 Aの状態から認知機能の低下が窺えるものの、認知症との診断を受けている旨の記載は見受けられません。医師への相談を促すこと自体は誤った対応とは言えませんが、Bは「認知症」という診断名を明確にしており、公認心理師が医学的な診断を行っていることが窺えるため、表現としては適切でないと考えられます。したがって、誤りとなります。

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02

正答は5です。

「認知症」とは老いにともなう病気の一つです。

さまざまな原因で脳の細胞が死ぬ、または働きが悪くなることによって、記憶・判断力の障害などが起こり、意識障害はないものの社会生活や対人関係に支障が出ている状態をいいます。

https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201308/1.html

出典:『もし、家族や自分が認知症になったら 知っておきたい認知症のキホン』 政府広報オンライン

〈代表的な認知症の疾患〉

・アルツハイマー型認知症:認知症として最多です。記憶を司る海馬の周辺から脳の萎縮が見られます。記憶障害(物忘れ)から始まる場合が多く、言語機能や運動機能は比較的保たれます。

・脳血管性認知症:脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など脳血管障害により生じる認知症です。どの部位に脳血管障害が生じたかによって症状が大きく異なり、また一日のうちでも症状が変動することが多いため、「まだら認知症」と呼ばれることもあります。

・レビー小体型認知症:幻視やパーキンソン症状などを伴う認知症です。パーキンソン症状とは、振戦、筋肉のこわばり、緩慢動作、歩行障害などを指します。

・前頭側頭型認知症:ピック病をはじめとする、大脳の前方部に主たる病巣をもつ認知症の総称です。食行動の異常や繰り返し行動など性格変化と社会的な振る舞いの障害が目立ちます。

「MMSE(ミニメンタルステート検査)」は、短時間で簡便に検査可能な認知症のスクリーニング検査です。

総得点30点で、一般的に23点以下を認知症の疑いとする判定が用いられています。27点以下は軽度認知障害(MCI)が疑われます。

「軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)」

認知症の前段階と考えられている軽度認知障害(MCI)とは、正常と認知症の中間ともいえる状態のことです。

本人が自覚している物忘れなどの記憶障害はありますが、記憶力の低下以外に明らかな認知機能の障害は見られず、日常生活への影響はほとんどない状態のことです。

MCIの人のうち年間で10~15%が認知症に移行するとされています。

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-033.html

出典:『軽度認知障害』 e-ヘルスネット 厚生労働省

〈認知症の予防〉

認知症の大部分を占めるアルツハイマー型や脳血管性認知症は、生活習慣病(高血圧、糖尿病、高脂血症など)との関連があるとされています。

聴力低下をケアすること、高血圧や糖尿病、肥満などの生活習慣病、抑うつを予防・コントロールすること、喫煙しないこと、社会的孤立を避けることなどにより、認知症の一部は予防できる可能性があるとする研究もあります。

したがって、認知症の予防には、適度な運動、バランスの良い食事、夜間の良好な睡眠、余暇活動を楽しむことを生活習慣にとりいれ、高血圧や糖尿病、脂質異常症、肥満などの生活習慣病を治療することが重要です。

Aは自覚的な物忘れや軽度の語健忘はありますが、日常生活への影響はほとんどなく、MMSEは27点で、軽度認知障害(MCI)に一応該当する値となります。

2ヶ月前の脳ドックで、軽度の脳萎縮を指摘されたとのことなので、認知機能に何らかの問題はある可能性はありますが、認知症かどうかはわからない状態です。

公認心理師Bは、これら面接での内容とMMSE結果について、担当医に報告する必要があるでしょう。

そして、Aの認知機能に対する医学的な診断や今後の方針などは、担当医の判断や指示を受けての対応となります。

1 .2 .3 .「高血圧症」は遺伝的な因子や生活習慣などの環境因子が関与しており、生活習慣病といわれています。高血圧症を放置していると動脈硬化が進み、脳卒中や心筋梗塞など重大な病気を引き起こす要因となります。高血圧症の治療は、薬物治療と生活習慣(食事・運動)の改善が基本です。

よって、選択肢1、2、3の助言は適切です。

4 .生活習慣病は認知症発症のリスクを高める重要な因子であることが報告されています。

その為、認知機能に何らかの問題がある可能性のあるAに、生活習慣病の早期発見のために定期的に健診を受けるよう公認心理師Bが助言することは適切な対応だと考えます。

5 .Aの認知機能に対する医学的な診断や今後の方針などは、担当医の判断や指示を受けての対応となります。

また、公認心理師BがAに「認知症」との医学的な診断や「お薬の処方」などの治療方針を伝えるのは、公認心理師の役割を超えた行為の為、不適切です。

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03

正答は5です。

72歳の男性Aの事例は、高齢者の身体疾患と認知症のスクリーニングに関する、公認心理師の対応が問われている問題です。

MMSEは、Mini-Mental State Examination(ミニメンタルステート検査)の頭文字をとってMMSE(エムエムエスイー)と呼ばれている、認知症の鑑別検査です。

満点は30点で、27点以下は軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)の疑い、23点以下は認知症の疑いとなります。

AはMMSEが27点ですので、軽度認知障害(MCI)が疑われます。

頭部MRIでは軽度の脳委縮が認められていますので、加齢と認知症のどちらの影響も考えられます。

公認心理師が担当医の依頼でクライエントAの対応をする際、生活習慣への助言は行われうるものです。

しかしながら、5においては、薬物療法に踏み込んだ助言となっています。

公認心理師として職責の範囲を越えていますので、適切ではありません。

1.高血圧症の治療を続けるように助言をすることは、公認心理師として担当医の治療をサポートする内容でもありますので、適切です。

2.栄養バランスのとれた食事を心がけるよう助言をすることは、高血圧症で通院しているクライエントに対して、適切です。

生活習慣を整えるように支援することは、Aの認知症の予防にもつながると考えられます。

3.運動習慣について助言をすることは、2と同様、Aの生活習慣を整えるための助言ですので、適切です。

4.生活習慣病の早期発見のために定期的に健診を受けるよう助言をすることは、適切です。

Aの認知症を予防すること、身体的なコンディションを整えるために支援をすることは、公認心理師の仕事であると考えられます。

5.上記の解説の通りです。

カットオフ値に関しては、MMSE-J(精神状態短時間検査 日本版)(エムエムエスイージェイ)を参照してください。

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