公認心理師の過去問
第3回(2020年)
午後 問84

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問題

公認心理師試験 第3回(2020年) 午後 問84 (訂正依頼・報告はこちら)

学習の生物的制約を示した実験の例として、最も適切なものを1つ選べ。
  • E.L.Thorndikeが行ったネコの試行錯誤学習の実験
  • H.F.Harlowが行ったアカゲザルの学習セットの実験
  • J.Garciaらが行ったラットの味覚嫌悪学習の実験
  • M.E.P.Seligmanらが行ったイヌの学習性無力感の実験
  • W.Köhlerが行ったチンパンジーの洞察学習の実験

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この過去問の解説 (3件)

01

正答は3です。

学習の生物的制約とは、生物的な制約が学習に影響を与えること、生得的傾向によって学習しやすい刺激や反応がある程度決まっているということを指します。

1 ソーンダイクのネコの試行錯誤学習の実験とは、ネコが実験装置から脱出するにあたって、成功と失敗を繰り返すうちに脱出する時間が短縮されていくことから、試行錯誤を通して学習が成立するといった「試行錯誤学習」を示したものです。

試行錯誤の結果、好ましい結果をもたらす行動は生起しやすくなり、好ましい結果をもたらさない行動は生起率が低下するといった「効果の法則」も指摘されています。学習の生物的制約を示した実験とは言えないため、誤りとなります。

2 ハーロウによるアカゲザルの学習セットの実験では、アカゲザルに課題に連続で取り組ませる中で、最初は試行錯誤的な学習によって正答率が徐々に上がっていたが、途中から学習(を容易に)する方法を習得するといった学習の構えが形成され、ほぼ確実に正解できるようになった現象が示されています。これも、学習の生物的制約を示した実験とは言えないため、誤りとなります。

3 ガルシアらの嫌悪学習の実験からは、ある食べ物を食べた後で不快な体験(嘔吐や下痢など)をすると、以降同じ食べ物が出ても嫌悪感が生じて食べられないような現象が示されています。食べ物と不快な体験が結び付いた古典的条件付けによって学習が成立したものと考えられ、味覚嫌悪条件付けとも呼ばれています。

さらに、ラットへの実験においては、味覚刺激と内臓の不快感は結び付きやすい一方で、電撃による痛みは、味覚刺激とは結び付きにくく視聴覚刺激の方が結び付きやすかったといった、連合されやすい刺激が存在することを示しています。学習の生物的制約が関連した実験であると言えるため、これが正答です。

4 セリグマンらの学習性無力感の実験では、パネルを押すと電気ショックを回避できることを体験した犬Aと、何をしても電気ショックが止まらないことを体験した犬Bを、柵を飛び越えることで電気ショックから逃れられる部屋に移したところ、Aは回避行動(柵を飛び越える)を行ったのに対し、Bは回避行動を起こさなかったということから、強制的で不可避的な不快経験を繰り返す結果、何をしても無駄という諦めが支配的になるといった学習に対する構えが形成されることが示されています。これも、学習の生物的制約を示した実験とは言えないため、誤りとなります。

5 ケーラーが行ったチンパンジーの実験では、手の届かないところにバナナを置いたところ、箱を積み重ねて登ったり、短い棒で檻の外の長い棒を手繰り寄せたりするなど、既に経験したことのある行動を組み合わることでバナナを取ることができたとされています。これはチンパンジーが「洞察」した結果であり、徐々にではなく(それ以前に獲得されていた行動の組み合わせや相互作用の結果として)突然生じるとされる「洞察学習」が生じたことが示されています。学習の生物的制約を示した実験とは言えないため、誤りとなります。

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02

正答は3です。

「学習の生物学的制約」とは、学習が生得的傾向の影響下にあることを示すもので、動物本来の機能に沿った刺激は、そうでない刺激よりも条件づけを受けやすいことです。

1 .ソーンダイクが行ったネコの試行錯誤学習の実験

問題箱に入れられたネコは、始めは様々な行動をして偶然脱出に成功するだけでしたが、試行を繰り返すうちに、箱に入れられるとすぐに脱出できるようになりました。これは、試行錯誤学習が成立していることを示したものです。

2 .ハーロウが行ったアカゲザルの学習セットの実験

ハーロウは、アカゲザルを対象に、同じタイプの課題に連続で取り組ませるという実験を行い、その中でアカゲザルが「学習すること自体を学習する」現象を見出しました。この実験では、アカゲザルが何度も課題をこなしていくうちに、問題が変わっても、類似した問題であれば、すぐに正解できるようになっていきました。

これは、課題のしくみが分かってきて「学び方」を学んだと言えます。このような現象のことを、ハーロウは「学習セットの形成」と呼びました。

3 . ガルシアらが行ったラットの味覚嫌悪学習の実験

ガルシアとケーリング(Garcia & koelling,1966)らは、ラットの実験によって学習における生物学的要因の重要さを明らかにしました。

味、光と音、体調不良(嘔吐など)、外的刺激(電撃)で条件付けの実験を行った結果、味は体調不良と連合しやすく、一方、光と音は外的刺激と連合しやいことが明らかにされました。

この結果では、通常の条件付け学習とは異なる特徴が挙げられます。

・繰り返しの呈示ではなく、1度だけの呈示で強力な嫌悪学習が成立すること

・条件刺激と無条件刺激を呈示する時間が長くても学習が成立すること

・学習が成立しやすい刺激が決まっていること(たとえば、味覚刺激と消化器系の異常は学習が成立しやすいが、痛み刺激や視覚的な刺激と消化器系の異常は成立しにくいなど)

・一度学習が成立すると消去が生じにくいこと

連合の選択性が存在することにより、その生物の生得的な要因が学習の成立に影響を与えていること、つまり学習の生物的制約が示されました。

4 .セリグマンらが行ったイヌの学習性無力感の実験

イヌに不可避の状況で電気ショックを与え続けると、最初は回避しようとしますが、繰り返されるうちに、回避できる状況になっても回避しようとしなくなるという実験です。

何をやっても嫌悪刺激を回避できない経験を通して無気力が学習されることを示しました。

5 .ケーラーが行ったチンパンジーの洞察学習の実験

チンパンジーがそれまで試みたことのない方法で、天井から吊り下げられたバナナを取ることを観察したケーラーは、問題場面を構成している諸情報を統合し、見通しを立てて問題解決に結びつける洞察学習の重要性を説きました。

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03

正答は3です。

1.E.L.Thorndike(ソーンダイク)は、動物を対象とする学習の実験を始めた人物として知られています。

ソーンダイクは、問題箱(puzzle box)という装置を考案しました。

お腹を空かせたネコに、ペダルを踏むとエサを食べらることを試行錯誤により学習させました。

この実験から、「効果の法則」が導き出されました。

2.H.F.Harlow(ハーロウ)は、アカゲザルの学習セットの実験を行いました。

アカゲザルに異なる2つの物体のうち定められた一方を選ぶようにする訓練を続けたところ、ほとんど確実に正しい物体を選ぶようになりました。

これは動物が学習セット(学習の仕方)を習得することによる、とハーロウは解釈しました。

3.J.Gurcia(ガルシア)は、ラットを用いた実験で、通常のレスポンデント条件づけとは異なるメカニズムを明らかにしました。

味覚嫌悪学習の実験において、消去抵抗が大きいことや、味覚以外の刺激とは結合しにくいことなどが明らかとされました。

このことから、ラットの生物学的制約があることが示されました。

4.M.E.P.Seligman(セリグマン)は、イヌの学習性無力感の実験を行いました。

「何をしても結果を変えられない」という状況が繰り返されるとやる気が消失し、無力感におちいる状態を、「学習性無力感」と呼びました。

5.W.Köhler(ケーラー)は、チンパンジーの洞察学習の実験を行いました。

チンパンジーが、天井から吊り下げられた食べ物に手が届かない時、近くにある木の箱を踏み台として使いました。

この際、チンパンジーが状況を把握することにより学習に至ったと、ケーラーは考えました。

そして、課題解決の糸口に至る学習を、「洞察学習」と呼びました。

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