大学入学共通テスト(公民) 過去問
令和6年度(2024年度)本試験
問42 (倫理(第2問) 問3)

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問題

大学入学共通テスト(公民)試験 令和6年度(2024年度)本試験 問42(倫理(第2問) 問3) (訂正依頼・報告はこちら)

以下を読み、後の問いに答えよ。なお会話と問いのCと祖母は各々全て同じ人物である。

次の会話は、高校生Cと祖母が、「日本人と平和」と題した市民向けの講演に参加した帰り道で交わした会話である。

祖母:「平和」にあたる日本語には、他にも「泰平」、「安穏」、「無事」などがあって、戦争がない状態だけではなく、疫病や災害がなく人々が穏やかに暮らす様子を全般的に指しているという指摘があったね。
C:そうだね。でも戦争の話は、昔のことや外国の話題だったから、ピンとこなかったな。それより、a 古代の神々と災害の関係は倫理の授業でも扱っていたから、聞いていて面白く感じたよ。
祖母:そうなんだね。確かに、感染症の話は身近だったし、『古事記』の話も面白かったね。他にはどんなところに興味を持った?
C:奈良時代は、b 仏教に対して疫病などの災いを鎮めるという役割が求められたということかな。宗教にそうした役割を求めるというのは現代でも見られるからね。
祖母:そうだね。そういえば、災害や疫病が起きる中で、心の平安を保つことは簡単ではない、ということが大きく取り上げられていたね。
C:講演でも紹介されていたけど、c 『方丈記』や『徒然草』をはじめとした無常観の思想も、災害に向き合う中で生まれてきた思想と言えそうだね。
祖母:良いところに気付いたね。でもね、戦争のことにももっと関心を持ってほしいな。あなたのひいおじいさんだって戦争に行ってね。
C:大事な問題とは分かっているのだけど、どうも自分に関係があることとしては考えられないかな。まあでも、おばあちゃんが言うなら、自分なりに戦争と平和について調べてみようかな。
祖母:それは素晴らしいことだね。私も、高校生だった時に読んで感銘を受けた本があるので、後で本棚から探して持っていくね。

下線部cに関して、無常観の説明と次の資料1・2の内容の説明として、最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。

資料1 鴨長明『方丈記』より
ああ、この世界は心の持ち方一つだ。心が安らかでなかったら、象や馬や珍しい財宝があっても意味がないし、宮殿楼閣があっても、希望は持てない。今、一間(ひとま)の寂(さび)しい庵(いおり)に住んでいるが、ここは自分で気に入っていて住んでいるのだ。……たとえば魚や鳥の生き様を見るがよい。魚は一生、水の中にいて、水の中が飽きたとは言わない。魚でなければ、その気持ちは分からない。鳥はいつでも林の中にいたがるが、鳥でなければ、その気持ちは分からない。閑居のおもむきも、それと同じだ。住んでもみずに誰が分かろう。

資料2 吉田兼好『徒然草』より
どんな事でも頼みにすることはできない。愚かな人は、深く物事を頼みにするために、恨み怒ることが出てくる。権勢があるからといっても頼みにすることはできない。強いものは壊れやすいものだ。財宝が多いといっても頼みにはできない。あっという間に失ってしまうからだ。……自分も他人も頼みにしなければ、うまくいった時に喜んだり、うまくいかなかった時に恨んだりすることはない。……人間は天地のなかで最も優れた存在である。天地は限定されることのない広い存在である。人間の本性もこの天地の本性とどうして異なることがあろうか。本性がゆったりとのびやかで限定されることがなければ、喜びも怒りも本性にとって障害とはならずに、また外界の事物のために心を煩わされることもない。
  • 無常観は、若々しく衰えることのない人間のあり方を追求する考え方である。資料1では、世事に惑わされることなく、心の安らかさを求めることが大切であると書かれ、資料2では、権力や地位は一時のものであると書かれている。
  • 無常観は、全てのものは移り変わっていくとする考え方である。資料1では、人間も他の生物と同じくはかない存在であるので、鳥や魚の生命を大切にするべきだと書かれ、資料2では、心の寛大さが天地のあり方になぞらえられて書かれている。
  • 無常観は、物事の消滅や流転を必然とする考え方である。資料1では、他人から気に入られなければどんな家でも満足できないと書かれ、資料2では、それほど多くなくとも財産や地位があれば心を煩わされずに生きていけると書かれている。
  • 無常観は、世の中は常に変化していくとする考え方である。資料1では、 自分の今の境地はなかなか他人には理解されにくいものであると書かれ、資料2では、元来はのびやかである本性に従えば、世間の出来事に心を煩わされないと書かれている。
  • 無常観は、自然や人生のむなしさと向かいあう考え方である。資料1では、わびしい粗末な家でも自分が気に入っていればよいと書かれ、資料2では、人間は優れた存在であるので天地と関係なく自由に生きていくことができると書かれている。

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この過去問の解説 (1件)

01

この問題では、日本古典文学における「無常観」という思想を題材に、鴨長明の『方丈記』と吉田兼好の『徒然草』の内容を比較しながら、無常観の本質とそれに基づいた生き方の表現を読み取る力が問われています。
「無常観」は、ものごとは常に変化してやまず、形あるものはやがて滅びるという仏教的な世界観に基づく日本の思想です。
では、問題を見てみましょう。

選択肢1. 無常観は、若々しく衰えることのない人間のあり方を追求する考え方である。資料1では、世事に惑わされることなく、心の安らかさを求めることが大切であると書かれ、資料2では、権力や地位は一時のものであると書かれている。

この選択肢は、無常観の定義として「若々しく衰えない人間のあり方を追求する」としていますが、これは誤りです。無常観とは「すべては移ろいゆくもの」という考え方であり、永続的な若さや力を肯定するものではありません。また、資料2の内容も「地位や権力が一時的で頼りにならない」という意味であり、「一時のもの」とは表現されていません。資料の読み取りにも誤りがあります。

選択肢2. 無常観は、全てのものは移り変わっていくとする考え方である。資料1では、人間も他の生物と同じくはかない存在であるので、鳥や魚の生命を大切にするべきだと書かれ、資料2では、心の寛大さが天地のあり方になぞらえられて書かれている。

この選択肢は、無常観の説明「全てのものは移り変わるとする考え方」は適切です。しかし、資料1の内容を「鳥や魚の生命を大切にするべきだ」とするのは読み違いです。あくまで、他者には理解されにくい生き方の例えとして動物が登場しています。資料2の解釈はおおむね正しいものの、前半の誤読のため全体としては不適当です。

選択肢3. 無常観は、物事の消滅や流転を必然とする考え方である。資料1では、他人から気に入られなければどんな家でも満足できないと書かれ、資料2では、それほど多くなくとも財産や地位があれば心を煩わされずに生きていけると書かれている。

この選択肢は、無常観の説明「物事の消滅や流転を必然とする考え方」は的確とは言えますが、資料1と資料2の内容の要約が誤っています。資料1は「他人の評価ではなく、自分自身が満足していることが大切」と説いており、「他人に気に入られなければ満足できない」という記述は真逆です。資料2も「財産や地位を頼みにしない」内容であり、こちらも誤りです。

選択肢4. 無常観は、世の中は常に変化していくとする考え方である。資料1では、 自分の今の境地はなかなか他人には理解されにくいものであると書かれ、資料2では、元来はのびやかである本性に従えば、世間の出来事に心を煩わされないと書かれている。

この選択肢は、無常観を「世の中は常に変化していくとする考え方」としており、これは正しい定義です。資料1についても、「自分の感覚や価値観は他人には理解されにくいが、それでも自分にとって意味がある」という主張が的確に捉えられています。資料2でも「人間本来のあり方に従えば、世間の動きに左右されない」という考え方が示されており、全体として正確です。

選択肢5. 無常観は、自然や人生のむなしさと向かいあう考え方である。資料1では、わびしい粗末な家でも自分が気に入っていればよいと書かれ、資料2では、人間は優れた存在であるので天地と関係なく自由に生きていくことができると書かれている。

この選択肢は、無常観の定義「自然や人生のむなしさと向き合う」という点は近いですが、やや抽象的です。資料1の要約は正しいものの、資料2で「人間は天地と関係なく自由に生きられる」とする記述は誤りです。資料2では、むしろ人間の本性は天地と同じであり、そこに依拠することで心の平穏を得るという内容です。

まとめ

無常観とは、すべてが移り変わることを前提に、人間の心の在り方や価値観を見つめ直す思想です。
この問題では、選択肢4が最も正確にその定義と資料の内容を踏まえた選択肢となっています。
特に資料1では「他人に理解されなくとも、自分の生き方を大切にする」視点が、資料2では「外界に惑わされずに本性に従って心の平穏を保つ」という点が読み取れるかがポイントでした。

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