中小企業診断士の過去問
令和4年度(2022年)
企業経営理論 問1

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問題

中小企業診断士試験 第1次試験 企業経営理論 令和4年度(2022年) 問1 (訂正依頼・報告はこちら)

企業の多角化に関する記述として、最も適切なものはどれか。
  • C.マルキデスによると、第二次世界大戦後の米国企業では、多角化の程度が一貫して上昇しているとされる。
  • R.ルメルトや吉原英樹らの研究によると、多角化の程度が高くなるほど、全社的な収益性(利益率)が上昇する関係があるとされる。
  • R.ルメルトや吉原英樹らの研究によると、多角化の程度が高くなるほど、全社的な成長性が低下する関係があるとされる。
  • 伊丹敬之によると、1つの企業で複数の事業を営むことで生じる「合成の効果」には、相補効果と(狭義の)相乗効果の2種類があるとされる。そのうち、物理的な経営資源の利用効率を高めるものは、(狭義の)相乗効果と呼ばれる。
  • 関連多角化を集約型(constrained)と拡散型(linked)に分類した場合、R.ルメルトの研究によると、拡散型より集約型の方が全社的な収益性(利益率)が高い傾向にあるとされる。

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この過去問の解説 (3件)

01

多角化の効果に関する問題です。

学者の名前が出てきて焦りますが、多角化の知識と「断定的・強調的な表現に注意」ということを念頭に置けば、選択肢を絞り込めます。

選択肢1. C.マルキデスによると、第二次世界大戦後の米国企業では、多角化の程度が一貫して上昇しているとされる。

誤り

「一貫して」という表現は要注意です。

アメリカでは1960年代に多角化、特に本業とは関係ない事業を買収して企業規模を拡大する「無関連多角化」が流行りましたが、1980年代からは一転して「集中戦略」が注目を浴びます。

アメリカの経営史を考えると、この選択肢は誤りといえます。

選択肢2. R.ルメルトや吉原英樹らの研究によると、多角化の程度が高くなるほど、全社的な収益性(利益率)が上昇する関係があるとされる。

誤り

多角化の経営成果(効果)の「成長性」と「収益性」にはトレードオフの関係があります。

多角化の程度が高いほど、経営資源(ヒト・モノ・カネ)が分散し、収益性は低くなります。

正しくは「全社的な収益性は下降する関係にある」です。

選択肢3. R.ルメルトや吉原英樹らの研究によると、多角化の程度が高くなるほど、全社的な成長性が低下する関係があるとされる。

誤り

多角化の経営成果(効果)の「成長性」と「収益性」にはトレードオフの関係があります。

多角化の程度が高いほど、経営リスクが分散され、多角化した事業の成功確率が上がるため、将来に向けての「成長性」は高まると考えられます。

正しくは「全社的な成長性は向上する関係にある」です。

選択肢4. 伊丹敬之によると、1つの企業で複数の事業を営むことで生じる「合成の効果」には、相補効果と(狭義の)相乗効果の2種類があるとされる。そのうち、物理的な経営資源の利用効率を高めるものは、(狭義の)相乗効果と呼ばれる。

誤り

多角化による事業間の「組み合わせ効果(合成効果)」は

①相補効果(コンプリメント効果)

②相乗効果(シナジー効果)

の2種類があります。

相補効果とは、複数事業において未利用の物的資産(モノ・カネ)を有効利用することで、互いに不足している点を補い合うことを指します。

相乗効果とは、単一企業が複数の事業を行うことで、異なる企業がその活動を個別に行うより大きな成果が得られることを指します。

「1+1が2より大きくなる効果」とイメージしましょう。

相乗効果は、多角化する事業の「組み合わせの妙」にあり、それを発揮する源泉は経営資源の共通利用にあります。

正しくは、「物理的な経営資源の利用効率を高めるものは、(狭義の)相補効果と呼ばれる」です。

選択肢5. 関連多角化を集約型(constrained)と拡散型(linked)に分類した場合、R.ルメルトの研究によると、拡散型より集約型の方が全社的な収益性(利益率)が高い傾向にあるとされる。

正しい

集約型多角化とは、本業の強み(コア・コンピタンス)を基に周辺領域へ拡大していく多角化です。(同心円状に広がっていくイメージ)

拡散型多角化とは、本業に蓄積された経営資源をテコに、新たな事業領域へ拡大し、そこで得られた知見を基に、また新たな事業を展開する、という流れを繰り返す多角化です。

(線が伸びていくイメージ)

集約型は拡散型に比べ、経営資源の分散度合が低いため、収益性は高くなると考えられます。

まとめ

多角化は一次・二次試験ともに必須の知識です。

①多角化の種類、②多角化の採用動機、③多角化の効果 を体系的に整理して理解しましょう。

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02

企業の多角化に関する問題です。規模の経済や範囲の経済などが論点として出題されやすいです。

選択肢1. C.マルキデスによると、第二次世界大戦後の米国企業では、多角化の程度が一貫して上昇しているとされる。

第二次世界大戦後の米国では1960年代から主に企業のコングロマリット(他業種間にまたがる巨大企業)化による非関連事業の多角化が進みましたが、1980年代にはその傾向は収束しました。

C.マルキデスの文献は直接確認していませんが、1960年代当時在米しており、その後米国メイン大学にて教鞭を取っていた同氏からすれば、米国企業の多角化が一貫して上昇している、という評価はしなかったと思います。

選択肢2. R.ルメルトや吉原英樹らの研究によると、多角化の程度が高くなるほど、全社的な収益性(利益率)が上昇する関係があるとされる。

R.ルメルトは、米国企業の多角化の程度と経済成果について分析を行い、その結果「集約型」企業のほうが「拡散型」企業よりも成長性や収益性が高い傾向にあることを結論としました。その理由としては、企業は収益性を高めるために成長分野に進んで投資しますが、中心企業への集約度が高いほどその成果に関する相乗効果が高いためです。一方で拡散型の場合は資源の制約や組織統制コストが集約型に比べて高くなるため、収益性については集約型に比較して低くなる、というものです。以上から、多角化の程度が高いほどというよりも、多角化のタイプにより収益性が異なるということができます。

選択肢3. R.ルメルトや吉原英樹らの研究によると、多角化の程度が高くなるほど、全社的な成長性が低下する関係があるとされる。

R.ルメルトは、米国企業の多角化の程度と経済成果について分析を行い、その結果「集約型」企業のほうが「拡散型」企業よりも成長性や収益性が高い傾向にあることを結論としました。その理由としては、企業は収益性を高めるために成長分野に進んで投資しますが、中心企業への集約度が高いほどその成果に関する相乗効果が高いためです。一方で拡散型の場合は資源の制約や組織統制コストが集約型に比べて高くなるため、収益性については集約型に比較して低くなる、というものです。以上から、多角化の程度が高いほどというよりも、多角化のタイプにより成長性の程度が異なるということができます。

選択肢4. 伊丹敬之によると、1つの企業で複数の事業を営むことで生じる「合成の効果」には、相補効果と(狭義の)相乗効果の2種類があるとされる。そのうち、物理的な経営資源の利用効率を高めるものは、(狭義の)相乗効果と呼ばれる。

物理的な経営資源の利用効率を高めることになるのは「相補効果」です。

選択肢5. 関連多角化を集約型(constrained)と拡散型(linked)に分類した場合、R.ルメルトの研究によると、拡散型より集約型の方が全社的な収益性(利益率)が高い傾向にあるとされる。

R.ルメルトは、米国企業の多角化の程度と経済成果について分析を行い、その結果「集約型」企業のほうが「拡散型」企業よりも成長性や収益性が高い傾向にあることを結論としました。その理由としては、企業は収益性を高めるために成長分野に進んで投資しますが、中心企業への集約度が高いほどその成果に関する相乗効果が高いためです。一方で拡散型の場合は資源の制約や組織統制コストが集約型に比べて高くなるため、収益性については集約型に比較して低くなる、というものです。

まとめ

本問は多角化ということで「範囲の経済」に関する論点でした。ルメルトの理論は覚えておいたほうがよいと思います。

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03

企業の多角化に関する問題です。

選択肢1. C.マルキデスによると、第二次世界大戦後の米国企業では、多角化の程度が一貫して上昇しているとされる。

不適切です。

第二次世界大戦後の米国企業では、1960年代に自社の事業とは異なる非関連事業にも事業展開を試みる多角化が多く行われていましたが、1980年代にはその傾向は縮小しています。

よって一貫して上昇していたわけではありません。

選択肢2. R.ルメルトや吉原英樹らの研究によると、多角化の程度が高くなるほど、全社的な収益性(利益率)が上昇する関係があるとされる。

不適切です。

多角化の程度が高くなると、売上高は上昇する可能性がありますが、利益率は低下する可能性が高いです。

特に非関連事業への多角化の場合、コストがかかりますので、収益性は低下します。

選択肢3. R.ルメルトや吉原英樹らの研究によると、多角化の程度が高くなるほど、全社的な成長性が低下する関係があるとされる。

不適切です。

多角化の程度が高くなると全社的な成長性は上昇します。一時的に収益性は低下する可能性がありますが、事業の幅が広がることで成長性が高まる可能性が高いと想定されます。

選択肢4. 伊丹敬之によると、1つの企業で複数の事業を営むことで生じる「合成の効果」には、相補効果と(狭義の)相乗効果の2種類があるとされる。そのうち、物理的な経営資源の利用効率を高めるものは、(狭義の)相乗効果と呼ばれる。

不適切です。

相乗効果とは、同一企業が複数の事業活動を行うことによって、異なる企業が別個に行うよりも大きな成果が得られることです。

一方で、相補効果とは、複数の製品市場での事業が、互いに足りない部分を補うことで、市場における需要変動や資源節約に対応できるために、企業全体として大きな効果が得られたり、効率が向上したりすることです。

相乗効果は企業が保有している複数事業の組み合わせによる効果ですが、相補効果は実際に不足しているモノなどを補うことですので、物理的な経営資源の利用効率を高めるものは相補効果と言えます。

選択肢5. 関連多角化を集約型(constrained)と拡散型(linked)に分類した場合、R.ルメルトの研究によると、拡散型より集約型の方が全社的な収益性(利益率)が高い傾向にあるとされる。

適切です。

関連多角化の場合、集約型の方が拡散型より収益性が高いと言えます。理由としては、どちらもシナジー効果を期待できますが、集約型の方がよりコストを抑えることができ、利益率を向上させるのに適していると言えるからです。

参考になった数11